REPORT円卓会議

円卓会議3

理系業界でキャリアを活かす

男性中心の理系業界。ダイバーシティのある職場につなげるには

渡邊 愛子氏Aiko Watanabe

小林製薬株式会社 中央研究所 医薬開発部 部長

永沼 美保氏Miho Naganuma

NEC
デジタルトラスト推進部 上席プロフェッショナル

「ダイバーシティの重要性は日本でもかなり認知が高まってきたと思うのですが、実際には業界ごとに差があります」
そう言って口火を切ったのは、ファシリテーターを務める前LinkedIn日本代表、現在武蔵野大学アントレプレナーシップ学科客員教員の村上臣さんです。
「私も学生時代は理工学部物理学科でしたが、女性が1割くらい。IT業界は日系と外資系、どちらも経験していますが、このテック領域の女性の少なさというのは国際的にも課題となっており、日本は特に出遅れているという現状認識です」

小林製薬の中央研究所でOTC医薬品の研究開発に取り組んでいる渡邊愛子さんは、「1982年から毎月、社長も含めて商品アイデアを出しています。年間で5万件以上。多様な人財からいろいろなアイデアが生まれ、それによって成長してきた会社だと自負しています。女性比率は30%、管理職で13%。研究職のほうが女性が多くて40%、管理職の比率も30%と、どんどん上がっています」と、会社が推進するダイバーシティ経営の成果を語ります。

NECデジタルトラスト推進部にて、AI事業における人権やプライバシー対応の業務に従事する永沼美保さんは「ICT業界は、まさに理系の男性の世界。女性は20~30%というのが現状になっています」としながら、良い変化も見られるといいます。
「サイバーセキュリティの世界は女性が増えておりまして、“リケジョ”とよく言いますが、セキュリティの場合は“セキュジョ”と言いまして(笑)、コミュニティをつくるというのはあります」

海洋研究開発機構(JAMSTEC)で人類史上初の「マントル掘削」実現に向けて奮闘中の阿部なつ江さんは、船上での生活を写真で紹介。そして「研究者の女性の割合は1割から2割、ときには1割を切っていることもあります」と、厳しい現状を振り返ります。
「地球惑星科学という分野では現在、3割くらいが女子学生。しかし、どんな仕事があるのか想像がつかないという杞憂があり、就職に結びついていないようです」

阿部 なつ江氏Natsue Abe

JAMSTECマントル掘削プロモーション室・主任研究員

村上 臣氏Shin Murakami

武蔵野大学アントレプレナーシップ学科客員教員

このような現実に対して、今どのようなアクションを取ればよいのか。産休や育休、男女問わず生活を大切にしながら働くことの大切さなど、活発に意見交換が進められていきます。その後は、参加者からの質問を募りながらディスカッション。「小林製薬では、研究職の女性管理職比率が全社平均より高いのはなぜ?」「保護者が女の子を理系に進めたがらない傾向がある。教育現場でできることは?」など、テーマごとにしっかりと議論を深めていきました。学生や若い世代へのメッセージとして登壇者全員が口にしたのは、「とにかく好きなことを突き進めて欲しい。そうすれば必ず道は開ける。周囲の大人も『女の子が理系なんて』などと否定することなく、本人が好きでやりたいことを続けられる環境を作って欲しい」ということでした。

まだまだ質問が飛び交うなか、惜しみながらエンディングに入る村上さん。理系業界のダイバーシティについて、渡邊さんは「私たちは社長を含めて、みんな“さん付け”で呼びます。日頃から安心して意見を言い合える環境作りなどの工夫をしていくと自然と根付くのでは」、永沼さんは「大事なのは人の話を聞くこと、自分が発信すること、そして一緒に考える。このサイクルが多様性の活かし方」、阿部さんは「海外では学生も教授も対等。私たちも学生の柔軟な意見でインスピレーションを得て、新しい方向へ進めたらと思います」と、それぞれのメッセージで締めくくりました。

「女性の方は貴重なご意見を参考にしつつ、男性の方はぜひ社内でもこういった話を積極的にシェアしていただきたい。そこから理解が深まって、よりダイバーシティのある職場につながっていくんじゃないかと思います」と、参加者に語りかける村上さん。業界を問わず女性リーダーが活躍する時代へ向けて、ヒントが盛りだくさんの円卓会議となりました。

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