講演
同時多発テロ:20年越しの人々の想い

大事なのは、この歴史を次世代の子どもたちにどう伝えるか。

高雄美紀氏Minori Takao

NHKワールド エグゼクティブプロデューサー

「ほぼ毎年ご登壇いただいている、この会議に欠かせないお一人」と佐々木かをりの紹介とともに登場されたのは、ジャーナリスト、NHKワールド エグゼクティブディレクターの高雄美紀さん。911からちょうど20年の今日、夜9時過ぎのマンハッタン「911メモリアルプラザ」に立ち、今ここでしか視聴できない貴重な生中継がスタートしました。

かつてワールドトレードセンターがあった、今は噴水になっている場所にじっと佇む人々、背景に映し出された命の象徴である青い光の柱・・・朝には式典が行われ多くの人が集まったここメモリアルプラザの、透明で静謐な空気感が画面から伝わってきます。そんな景色の中で高雄さんは、「20年経った今、アメリカでは911に対する意見が分かれ、メディアの伝え方にもばらつきがある」とした上で、ご自身が取材したリアルな声を紹介します。

一人目は、911犠牲者の母親。彼女は敢えてアルカイダ側のメンバーの母親と友人になり、交流を続けているといいます。それは、「二度とこういうことを起こさないためには、テロを起こした側の母親の想いも聞き、互いの想いを話し合うことが大切だから」
また、当時ワールドトレードセンターで働いていて助かった一人の方は、多くの同僚を亡くし、当時も今もインタビューで話すことができない。その間、うつになったりもして、彼と家族にとって辛い20年だった。今も傷は癒えず、全く同じ痛みを抱えたままだといいます。

そして、高雄さんが取材で出会った、多くの命を救った消防士の方の言葉はとても感動的でした。「娘たちに僕が知ってほしいのは、911の悲惨な記憶よりもその次の日からのこと。それは世界中から届いた応援であり団結である。ここを平和の場所に変えていかなくてはならない」

今年5月にニューヨークに赴任された高雄さんは、現地の空気を生で感じる中で、20年経ってもこれだけ多くの人がここに集まり祈りを捧げていることに目を向けます。そして、NEXT CHAPTERを考えるとき、消防士の方の言葉にもあったように、「大事なのは、子どもたちにこの歴史をどう伝えるか。それが次世代を育てることになるから。だからこそ、911はもちろん、コロナのことについてもどう伝えていくかが大切」と強調しました。

悲惨な歴史、苦難の記憶を忘れないことも大切だが、一方で、次へ進むときに人は何をしたのか、どんなサポートがあったのかを伝えていくことが大事である。そのことが画面越しにまっすぐ伝わり、思わず目頭が熱くなる言葉や静かに輝くマンハッタンの風景とともに、NEXT CHAPTERへの重要な視点をいただいたセッションでした。

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