円卓会議203ESG 投資は、企業を成⻑させるのか

  • 熊谷 亮丸
    熊谷 亮丸

    株式会社大和総研 常務取締役 調査本部副本部長 チーフエコノミスト

  • 吉高 まり
    吉高 まり

    三菱UFJモルガン・スタンレー証券株式会社
    環境戦略アドバイザリー部
    チーフ環境・社会(ES)ストラテジスト


企業価値を進化させるESG投資。消費者の行動も大きなカギに。

Environment(環境)、Social(社会)、Governance(企業統治)に目を向けたESG投資。その最前線をさまざまな角度から探ります。ファシリテーターは佐々木かをりです。

まずは、三菱UFJモルガン・スタンレー証券で環境金融コンサルティング業務に長年携わり、機関投資家や企業に向けてアドバイスしている吉高まりさん。「2006年に公表された国連の責任投資原則(PRI)で、非財務情報も含めて企業評価するように、という視点が示されたことがESG投資の背景」と語り、「これはブームでない」ときっぱり。一方日本では、GPIFのPRI署名発表が始まったばかりで、海外に比べて企業の情報開示が進んでいない現状に触れ、「日本のCSRレポートで発信しているのはリスク回避のためのG(企業統治)の情報が多い。今求められているのはE(環境)とS(社会)で将来くるであろうリスクとビジネス機会の情報。今後のGになりうる情報です。そのことを経営者自らが投資家とエンゲージして、一緒に企業価値を上げましょう」と、現状の課題を語ります。

大和総研チーフエコノミストの熊谷 亮丸さんは、「資本主義4.0」という言葉を用いて資本主義の大きな流れを語り、「働きやすい環境をつくると優れた従業員が入り、収益が上がる、株価が上がる。従業員に使うお金は後ろ向きのコストではなく前向きの投資となり、対立構造だった株主と従業員が一段高いところでWin-Winの関係になった。新たな資本主義のステージに入って、そこでもっとも重要なのがESG投資であるということです」と、今まさに起こっている進化を解説します。

ジェンダーギャップ指数を発信、ダボス会議を運営している国際機関、世界経済フォーラムの日本代表・江田麻季子さんは、「地球規模で解決しなければいけないことを、ビジネスの力で進めることで解決を早めることができる。それがESG投資」とし、「ダボス会議では、世界各国の経営者がリーダーシップを取り、経営者間で声を掛け合い、コミットメントし、すぐに活動につなげる。すごくパワフルです。ESG投資はとても重要なトピックで、グローバル企業のトップはみなさん進めています。私は、日本の経営者はそういった活動をもっとリードできると思っています」と、企業のトップに期待を寄せます。
そして佐々木かをりからはESG投資のための判断材料となりうる事例として「ダイバーシティインデックス」を取りあげます。「ダイバーシティは女性の人数ではなく、もっと全体的な評価が必要。そこで、社長をはじめとする組織全員がどのくらいダイバーシティを理解し、行動しているのか、ということを数値化しています。組織のダイバーシティの進度と企業成長の関係も見えるようにしていく予定」と、語ります。

さらに、参加者とともに議論を深めていきます。最初に「企業のリスク回避と成長性を高めることの具体的な違い」と質問したのは夏に高校を卒業したばかりの学生。また、「企業の女性採用率は開示されるようになったが、投資家は見ているのでしょうか」「こんな低い数字を開示したら、良くないと思って出せないこともあるが、出した方がいいのか」と次々と質問が。その一人には、なんとトークショーに登壇された上野千鶴子さんの姿も!「日本の将来は巨艦沈没というシナリオで、大変悲観的だと私は思う。これが変わる方法があったら考えていただきたい」という投げかけに会場は大いに盛り上がります。

最後に佐々木が最初に質問に立ち返ります。「ESG投資は、企業を成長させるのか、の答えはイエス。企業成長だけでなく、社会も、個人生活も、もっといろんなものを成長させるということが見えてきたと思います。そのためには私たちの働く場所、買うものの選び方など日々の生活から変えていくことではないか」と締めくくります。最先端のテーマを取り上げた円卓会議は、熱気とスピード感あふれるひとときとなりました。

イー・ウーマンピアからのレポート

「必要不可欠なESG投資」


近年、地球温暖化によって極端な異常気象が観測されるようになったこともあり、地球環境問題に関心を抱くようになりました。そのことがきっかけで、この「ESG投資は、企業を成長させるのか」という会議に出席させていただきました。

結論から言えば、「ESG投資は、企業を成長させます」。

世界経済フォーラム日本代表の江田麻季子先生から「ESGとは地球規模でやらないといけないことを、ビジネスの力を生かして解決していこうということです」と大変わかりやすくご説明していただきました。

三菱UFJモルガン・スタンレー証券社の吉高まり先生から、「日本では、ダイバーシティが一番リスクです」とご指導していただきました。さらに「ESG活動における主要テーマ(エンゲージメント)」に関して、GPIFが東証一部上場企業2192社へアンケートを実施され、604社がご回答された結果などの資料をいただきました。その資料においても、1位がコーポレート・ガバナンス、2位が気候変動、3位がダイバーシティでした。また例えば、「全世界における株式時価総額が100億ドルを超える企業の株式パフォーマンス」の統計資料からは「女性取締役のいる企業の方が、いない企業に比べ、株式パフォーマンスが良い」ことがわかりました。

素晴らしい講師陣の先生方のご講演に、会場はまたしても熱気に包まれ、多くの質問が寄せられました。某大手企業の方からの「ダイバーシティに関して、あまり低い数字だと情報開示しない方がいいのでしょうか?」というご質問に対して、吉高先生は「きちんとした数字が出せるまでは出せないという会社が多いが、出さない方が問題です。開示した後に、どれだけ数字をあげられるのかが大切」と適確なご指導をしてくださいました。

大和総研社の熊谷亮丸先生からは、「トップダウンでSDG‘sをやらないといけない。日本はボトムアップの組織になっているので小ぶりなものしかできない」と大変貴重なご指導をしていただきました。

佐々木かをり社長からAIについてのご解説を聴かせていただいたことも、熊谷先生から資本主義は第4段階に入っており、この段階で求められる4つの能力について教えていただいたことも、貴重な学びとなりました。

佐々木社長から最後にわかりやすく、「ダイバーシティとは日本で古くからある概念、3人よれば文珠の知恵ということです」とご指導していただきました。

先生方のひと言ひと言すべてが貴重なことばかりで、あっという間に時間が過ぎてしまいました。日本は遅れていて、外国は進んでいるという発想ではなく、日本の強みをよくわかった上で、問題点をご指摘・ご指導してくださるのが、とても嬉しく感じられました。これからも日本が秘めている可能性や力を信じていきたいと思いました。

マカロン71