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「女性レーサー。世界への挑戦」

井原 慶子

井原 慶子

カーレーサー
慶應義塾大学大学院特別招聘准教授
FIA国際自動車連盟アジア代表委員

「こんにちは、レーシングドライバーの井原慶子です」。可憐なピンクのワンピース姿で登壇された井原さんがよく通る声で挨拶をすると、大きな拍手が湧き起こります。

井原 慶子

今まで16年間、世界70カ国をレースで転々とし、どの組織にも属さず一匹狼でレース界の荒波に向かって来た。世界最高峰のレース「ルマン」では、150名の参加者のうち女性は一人だけ。なぜなら、ものすごい体力が必要なスポーツだから。私の1日のトレーニングは、朝20分のジョギングにはじまり100kmサイクリング、2時間半筋トレ、最後に25mプールを50回泳ぐ。強靱な体力を要するスポーツの世界に、アジア人の女性の私がなぜいるか……。他の誰にも語れない貴重な体験談がスタートしました。

井原 慶子
井原 慶子

はじめはレースクイーンだった井原さん。「自分の頭も身体も全ての能力を出し切って生きたい」と思って、「免許も無いのにレーサーを目指した」との言葉には、会場のあちこちで「へえー!」と驚きの声や表情が。
100人に99人の反対を押し切って、ゼロからアルバイトで1000万円のお金を貯め、イギリスのレース界に飛び込んで最下位からのスタート。その時の悔しい、恥ずかしい思いがモチベーションとなり、次へのステップにつながったと言います。

続くエピソードは、フランスのチームに所属した際、「あと2回クラッシュしたらあなたを解雇します」と最後通告され、崖っぷちの覚悟でレースに臨んだ。どうやって体力や感情をコントロールするかということをとことん考え、食べ物で血糖値をコントロールして感情を安定させる、血流でモチベーションを上げる、音楽や香りで脳を操るなど、女性ならではの五感を上手く使うようになってから結果が出たこと。また、レースでクラッシュすると「女性だから危ない」「女性はできない」「女性は辞めろ」「アジア人は帰れ」とまで言われたが、それを逆手にとり、「私は何をするかわからないアジア人の女性」という空気を醸し出すと誰も近づいて来なくなってぶつからなくなったと、ユーモアを交えながら快いスピード感でスピーチが続きます。

井原 慶子

後半では、イギリスで体調を崩し、当時のマネージャーから「よくがんばった。アジア初、女性初の記録を塗り替えてきた。でも、一世代で全てを成し得るほど歴史は早く動かない。だから君は日本に帰ってアジアや女性の活躍のために働きなさい」と言われたこと。その後、世界最高峰のレース「ルマン」に挑戦することを決意し、あちこちで説得のための時間と言葉を共有し、女性のハンデを全て戦力に変えて、ようやく3度目の挑戦でルマンを完走し、表彰台に上がれたことなど、感動的で示唆に富んだ体験談を惜しみなくシェアしてくださいました。

「感情こそ人生の原動力。生死を賭けて仕事をしていると、ワークとかライフとか分ける意識がなくなり、全部が今やりたいことで、全部がライフとなる」との名言に続き、最後は、「2020年のオリンピックに向けてダイバーシティを実現できるよう、みなさんと共にがんばっていきたい」と、オリンピックを契機に技術革新によって産業構造を変革しようという取り組みを行っている井原さんらしい力強い言葉で締め括りました。
メイン会場では最後のスピーチ、会場は感動の余韻に満たされていました。

注)出演者の肩書きは開催当時のものです。

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